夢見る少年と疲れた大人のコントラスト 「言の葉の庭」

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アニメ映画の監督といえば、一般的には宮崎駿監督、少し詳しくなってくると細田守監督あたりが有名だろうか。
新海誠監督は、これらのメジャーな監督とは少し違った人気を持っている。
美しい映像と切ない脚本、そしてメジャーシーンからは一歩引いた売り出し方によって、新海監督はどこか「自分だけのお気に入り」といった気分にさせてくれる。

そんな監督の最新作「言の葉の庭」が現在バルト9などで公開されている。
2011年に上映された同監督の前作「星を追う子ども」を見逃してしまい、2007年公開の「秒速5センチメートル」以来の鑑賞となった。
「秒速~」を見たのは大学生の時で、当時は主人公の態度や子供っぽさにイライラしながら号泣した記憶がある。
今回、映画を鑑賞する前日にDVDを引っ張りだし久しぶりに鑑賞したのだが、あの頃よりは自分がオトナになり、第三部の絶望感の感じ方がまるっきり変わっていたことに驚いた。

映画での上映では、言の葉の庭上映の前に、短編「だれかのまなざし」が上映される。
これは野村不動産の提供でイベント上映された作品で、近未来を舞台に父と娘と家族の絆を描く。

新海監督はこれまでもCM映像などを制作しているが、毎度のことながら短い中で監督の魅力をうまく伝えている。
スポンサーがいるからか絶望的な部分は少なめとなっていることもあり、今回のように同時上映されるときにあとに引っ張らずスッキリした気分で見られた。
全体的に作画の枚数が少ないが、その分演出にこだわりを感じたことも魅力的だ。

そして言の葉の庭が始まる。
物語は6月から始まり、梅雨から夏へと移り変わる季節の中で主人公とヒロインの関係性を描いている。
映画の上映開始の季節を合わせているので感情移入しやすい。

湿気を多く含んだ空気と、振り続ける雨の表現。
新宿駅の周辺を舞台としているのは、秒速5センチメートルを思い出させる。

「雨の降る日の午前中だけ学校をサボる」と決めている主人公は、雨の降る新宿御苑の東屋でヒロインと出会う。
真昼間から、チョコレートをつまみにビールを飲む社会人の女性。
少年からしたら嫌悪の対象そのものだが、それゆえに彼女に惹かれていく。

主人公は15歳の高校1年生だが、妙に達観しているところが逆に子供らしい。
自分はこんな場所で時間を無駄にしていていいのかと学校で物思いにふけ、自分の夢である靴職人の専門学校に入ることを夢見てバイトに明け暮れる。
こういう時代って誰でもあったんだろうなあ。

ヒロインは疲れた大人といった様子で、詳細はネタバレになるのだが、事情により精神的に疲弊している。
彼女の生い立ちはやけに生々しく、夢見る少年とのコントラストが心にグサリと来た。

新海監督は物語のテーマを「恋」と語り、少年の初恋を軸に進む。
大筋としては王道な展開で、それゆえに監督の美しい映像が光り輝く。
特に雨の表現には力が入っており、季節の違いによる変化や雨の強さといった細かい部分が、雨自体だけでなく反射する光の表現などで丁寧に描かれていた。

少年時代の恋心に思いを馳せるのも良いが、ヒロインの心の変化も色々と考えさせられる。
疲れきった27歳の女性が、15歳の少年に惹かれていく。
一回りも年下の子の純粋な姿に癒されていきながらも、やがて来るであろう別れを予感させられる。

どうしてもストーリーの魅力を書こうとするとネタバレが多くなってしまうのだが、仕事や社会での生活に疲れた心が癒される作品だった。

映像表現では、前述の雨の表現はもちろん、いつもの背景の美しさも気持ちいい。
本当に短いワンカットのためにも全力を注いでるのはいつもながら感心させられる。

人物はややヲタ受けしそうな絵柄になったので、個人的にはとても良かった。
(ヲタ的に)豪華な声優陣との相性もよく、特に大人っぽい演技を見せるヒロインが花澤香菜だと気づくまで少し時間がかかった。
こういう声優設定なども、俳優を使ったりしないあたりにマイナー感の演出を感じさせてより好感触だ。

売り出し方として、劇場での公開と同時にBlu-ray、DVDを劇場先行販売している点も面白い。
最近アニメ業界で出始めた手法だが、これを購入するには映画の半券を提示する必要があるので、ついつい買ってしまいそうになった。
偶然あとに予定が入っていたため購入には至らなかったが、Blu-rayを記念品として購入できるのは、映画館での思い出をそのまま自宅でも楽しめてとても良いことだ。
以前は映画館でのリピーターを増やす施策が流行していた気がするので、その頃とは少し違っているのだろうか。業界をあまり深くは知らないので気になる点だ。

自宅でじっくりと繰り返し見てみるのにも適している作品なので、もうすぐBlu-rayとDVDの一般販売も始まる予定なのでそれを待っても良いのかもしれない。
しかし、大きなスクリーンで美しいアニメーションの世界に浸り癒されるのもとても良い体験だろう。

この映画の直後に別の実写映画を見たところ、そちらも十分に美しい映像だったのだが新海監督の美しい世界観から見てしまうとカメラのアラが目立ってしまい、順番を変えればよかったと反省してしまった。
やはりアニメは美しい。

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