盛者必衰 人生の春と冬を描く「グランド・マスター」

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「2046」や「マイ・ブルーベリー・ナイツ」などで知られるウォン・カーウァイ監督
グラフィックデザインやテレビ業界を経て監督になり、スタイリッシュな映像で知られる同監督の最新作「グランド・マスター」は、中国武術に生きる人々を描いた伝記ドラマである。

主演のトニー・レオン演じるイップ・マンは、のちにブルース・リーの師匠となる詠春拳の達人。
ゴン家の娘で、奥義六十四手を受け継ぐ宮若梅を演じるチャン・ツィイー。
そして彼女の宿敵となる馬三の3人が物語の主人公といえるだろう。

ストーリー全体は史実を忠実に再現したであろう内容で、特に特殊な設定が出てきたりなどはなかった。
それぞれの武術家が己の力を極めようとするも、戦争や戦後の混乱によって波乱の人生を送る結果となるという内容だ。

カンフー映画というジャンルは、もうすっかり過去のものという印象が強い。
今、なぜカンフー映画なのか。それはきっと、「歴史物」として物語を描くための題材として最適だったからに違いない。

オープニングに状況説明のナレーションが入ると、すぐに戦闘が始まる。
スローモーションカメラによる撮影で捉えられる中国武術。
暗い雨の中で、シルエットのように浮かび上がる姿は、その撮影方法の魅力を最大限に引き出している。

イップ・マンは人生を四季にたとえ、妻を持ち子を授かり、肉体的にも成熟した時期を春としている。
光り輝く娼館・金楼の情景とともに、イップ・マン自身の、そして中国武術界の「春」を描いた。

そこから時が流れ、それぞれの主人公の物語が分岐し始める。
激しい戦争の中で苦しい思いをし、やがて家族と離れるイップ・マン。
師匠との対立により、流派を裏切る馬三。
そしてその裏切りにより、復讐の道へと進む宮若梅。

やがて、人生の季節は冬を迎える。
衰退した中国武術と、そしてそれぞれの人生。
美しい金楼も朽ち果て、街全体が中国武術界そのものの状況と重なっていく。
道は違えど、それぞれの目的は中国武術のトップとなるということ。
はたしてどのような結末を迎えるのか。

アクション映画としてこの映画を見ようとすると、正直退屈に感じられるだろう。
実際、私が書いたあらすじがやや大雑把だったことからも分かる通り、劇中何度かうとうととしてしまった。
この物語は歴史が軸で、そして中国武術は激しいアクションではなく、美しい型の連続によるアートである。

歴史物として見ると、話がそれぞれの人物に分断してしまったことが残念である。
ありのままを描こうとする姿勢のためだろうからこの発言には語弊があるかもしれない。
ただ、話の起承転結のメリハリが弱く、回想による物語の展開もテンポを悪くさせる要因であった。

長い歴史の物語を開けた先に、人生の終焉を描く。
その時になってようやく私は、この物語は、いや、人生とはこんなにも重たいものだったのかと気付かされた。

アクションの部分では、それぞれの流派の特徴を生かした美しさに心惹かれる。
静かに戦うイップ・マンと、むき出しの感情で戦う宮若梅。そして圧倒的な力により相手を破壊する馬三。
その他にも沢山の種類の流派が登場し、それぞれの魅力が映像として綺麗に描かれていた。

スカッとしたい気分だったので拍子抜けではあったのだが、これはこれでとても良い。
映画館で見るべきかと言われると、そこまで激しいアクションがないのでBlu-rayで良いのかなと思ってしまう。
それぞれの予備知識が欲しくなっているので、パソコンやスマホを片手に検索しながら見ていくとより熱くなれるのかもしれない。

映像面では、美術の美しさが目を見張る。
壁から食器まで金色に輝く金楼や、雨降る中での戦闘。
そして終盤で雪の舞う庭で、舞を踊るように武術の稽古をするチャン・ツィイーの姿はため息が出るほど美しかった。

あくまでイップ・マンが主役だと思っていたのだが、歴史としてそれぞれの物語全てを描こうとしているため、特に女性武術家であるチャン・ツィイーが多く登場したことはとても嬉しかった。
とにかく美しいの一言に尽きるが、美人が戦うとこんなにも魅力的なのかと感心した。
むしろイップ・マンよりも多く登場していたんじゃないかと思わされるほどフューチャーされている。

この映画を見る前には、とにかく予備知識を多めに仕入れていくことに限るだろう。
中国武術の隆盛と衰退を、じっくりと見届けよう。

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