「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」 腐った街と腐った人間の物語

このエントリーをはてなブックマークに追加

映画館のスケジュールを見ていたところ偶然見つけたこの映画。予告やCMなどは特に見たことがなかった。
調べてみたところ、監督のデレク・シアンフランスは日本で上映された作品は「ブルーバレンタイン」一本のみのようで、あまり有名ではないようだ。
見終わってから、なんとも言えぬインディーズのような魅力にドキドキとした。ブルーバレンタインがカンヌ国際映画祭で「ある視点」部門に出品されたというのを読み、なるほどと思う。

クライム・ドラマ映画 ―犯罪を主題に人間を描く―

「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ」はクライムムービーと呼ばれるジャンルで、犯罪を主題としている。
主人公のルークは天才的なバイクの腕前で危ないスタントマンの仕事で地方巡業をしていたが、ある日かつてのセックスフレンドとの間に子供ができていたことを知る。
子供のために彼らの住む街に定住し仕事を始めるのだが、子供への愛情から多くの金を手に入れるために、銀行強盗をすることになる。

三部構成 ふたつの親子

冒頭は前述のルークによる物語だが、実はこの作品は三部構成となっている。
ルークを主人公に、子供への愛情からくる犯罪を描いた第一部。
新米警官のエイヴリーを主人公に、正義と組織と犯罪の泥沼を描く第二部。
そして、15年後にそれぞれの息子たちの運命的な出会いと悲劇の物語である第三部だ。
154分というとても長い映画で、各部の長さもそれぞれそんなに変わらないようだ。

三部構成というと、章立てをしていたりそもそも映画自体を3作品にわけることが多いが、この作品ではシームレスに三部が連なる。
私は鑑賞中、同じく三部(それに加えてプロローグとエピローグがあるが)で構成される「パルプ・フィクション」を思い出した。
パルプ・フィクションの影響を受けた作品は多く見受けられるが、本作では物語は時系列順に進むし、あっと驚かされる伏線が隠されていたりもしない。
ただ、この時系列順という構成になぜだか奇妙な違和感を覚えた。

というのも、おそらく物語としてもっとも完成されているのは第三部である。
転校生との出会い、自身の出生の謎、かつて父親と親しかった人物との思い出話といった、ティーンエイジャーを主人公にした定番の物語。
通常の映画だったら徐々に謎が明かされていきドラマチックな運命を描くという流れだろうが、そういった謎の部分を時系列順に先に提示しているのが面白い。
見終わって考えると、第一部と第二部はまるでスピンオフのような内容だった。
ある意味でこの作品は、時系列順にした結果、物語の展開としては順番が狂っているのだろう。それがとても独特だった。

登場人物全員「イヤなやつ」!

テーマが犯罪であるため、メインキャラクターがみな犯罪を犯していく。
しかし、「仕方なく」と同情するようなケースは稀で、それぞれキャラクターが何かしら心が歪んでいる

ルークは典型的なDQNで、全身刺青をいれたバイカー。怒りっぽくて頭が悪く、見ていてかなりイライラさせられた。
一方で警官であるエイブリーは、正義感あふれる警察官として相反する存在として描かれていたが、その正義感がやがてどす黒く汚れていく。
頭が悪すぎて突っ走ってしまったルークはまだ同情に値するが、エイブリーは徐々に落ちていくのでもう最後まで嫌なやつに見えた。

それぞれのキャラクターが歪んでいく根底には、彼らの住む街という環境要因が大きい。
第二部の終わりに近く、私がすべての登場人物に対し諦めの感情を持ちだした頃になり、
映画の最初のほうでとある登場人物が「この街は腐っている」といった趣旨のセリフを言っていったことを思い出した。

人間の心情を巧みに描くカメラワーク

映像では、特にCGなどは使わず、役者の体当たりな演技やカーチェイスがキラリと光る。
全体に寄りの映像が多く、また人物の目線として使われるシーンが多かったことも魅力的だった。
通常のシーンからスムーズに人物目線へと移り変わるので自然に感情移入でき、特にカーチェイスのシーンではかなり効果的に使われていた。
こういったカメラワークもインディーズ的な雰囲気で、作品内容の荒々しさとうまくマッチしていた。

後半になるほど美しい景観や、ライティングの綺麗なシーンが多かったのだが、その美しさがむしろキャラクターたちや街の汚い部分を強く浮き彫りにしていく。
地方らしい絶望感というのは、邦画だが「サイタマノラッパー」で面白く描かれている。
サイタマノラッパーはもっと引きのショットが多かった印象なので、同じものを伝えるにしても正反対のやり方だった。

鑑賞後はやるせない気持ちでいっぱいになり、人間の弱さと運命の残酷さに打ちのめされた。
デレク・シアンフランス監督の他の作品もぜひとも鑑賞してみたい。

お問い合わせはこちら